2018年7月9日月曜日

ミセスは未定(仮)。その23。


最後の思い出が、”手を振り上げられたこと”になるのは、絶対に嫌。

谷崎さんの手が鞘に収まったとはいえ、お互いの心の奥底以上にもっと深い闇から放出されている、重く救いがみえない空気までは、修復できませんでした。谷崎さんと私は、お互い無言で、ひたすら谷崎さんのご実家まで、道中歩き続けました。

どうしてなのか、この時、なぜか異常に音に敏感でした。目の前を流れる信号機や車のクラクション、意味のない周囲の雑音などが、妙にダイレクトに耳を劈くのを皮切りに、自身の体内を慌てめくるように駆ける体温や、収集つかない感情で騒つく心、呼吸、ねっとりと絡みつく暑さで背中から、脇から、額から垂れ流れる汗、乱れたメンタルから噴出する冷や汗の音などが、鼓膜にこびりついて離れませんでした。

暑さでトチ狂ったのか、目眩がしそうでした。

「もう一度言うけど、本当に絶対、荒波立てるようなこと、しないでね」

谷崎さんのご実家の敷地に足を踏み入れた私に、谷崎さんは改めて、もう一度念を押すように、強く言い捨てました。本当に、その口調はキツくて。捨てるという言い方が適切な、そんな乱暴な言い方でした。

その語気に狼狽えた私は、反論の機会を逃してしまいました。慣れた手つきで、実家の玄関ドアを開ける谷崎さんに導かれるまま、ついに谷崎家という法廷に入廷しました。

「ふみよさん、いらっしゃい」
「…ご無沙汰しております」

総裁もとい、谷崎さんのお母様の笑顔は、笑顔でしたが、笑っていませんでした。

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