2018年7月6日金曜日

ミセスは未定(仮)。その22。


まさか、あんなに大好きで頼もしさを感じていた谷崎さんの雄々しい後ろ姿に、苦しさで抉られる日が来るなんて。

「あのさ、悪いけど今日は、荒波立てないでくれないかな?」

谷崎さんのご実家の最寄駅からご実家までの道中、私は谷崎さんにそう忠告されました。

「俺の家族、皆、ふみよちゃんが来るのを楽しみにしてるんだよ」
「特にお母さんなんて、すごく楽しみにしているし。ふみよちゃんの好きな唐揚げを、たくさん作ってくれてるんだよ」

その谷崎さんの口調は、これまで一度も触れたことない程、氷点下並みの冷たさと鋭さ、そして棘が滲んでいました。またこれは気の所為かもしれませんが、谷崎さんが纏う雰囲気に、静かな苛立ちと怒りが含まれていたように思えました。

「それは…できません。私は今日、食事をするためではなく、お別れをするつもりで参りました」

有無を言わせない谷崎さんの視線に、思わず声が竦みそうになりましたが、私は絞り出すように声帯を震わせました。

「…本当は、二人だけできちんとお話したかったです。普通は、第三者を交えずに、二人の間で話し合うものだと、そう思います」
 「しかし谷崎さんは、それを拒まれました」

 「私の気持ちを察した谷崎さんのお母様が、私に幾度もお怒りのメールやお手紙を送ってこられました。この件で一度私とお話したいと。特にラインでは毎日のように、話がしたいとそうおっしゃってこられました」
 「ですから今日は、そのつもりで参った次第です」

その瞬間私の目に映ったのは、苦味に満ちた歪んだ表情で、私に向かって、平手を振り上げる、谷崎さんの姿でした。

あ、私はこれから叩かれるんだ。

しかし、そう覚悟してこれから受ける痛みに怯えて目を閉じた私に、その大きな掌が、刃となって向かってくることは、ありませんでした。理性や我を失いつつあった右手は、すんでのところで止まり、バツが悪そうにぎこちなく鞘に収まりました。

「ごめん」

すぐに谷崎さんは私に背を向けられたので、この時の谷崎さんの表情を窺い知ることはできませんでした。ただ、私よりも、谷崎さん自身が、自分の言動に驚き動揺しているような、そんな不安定な気配だけは伝わってきました。

”「結婚する前にわかってよかったね」”

兄と両親に言われた言葉が、私の脳内で強く、警告音を発していました。

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